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<<   作成日時 : 2011/01/24 07:48   >>

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文学・大杉栄   本多 敬 作

第一部

軍用トラック後部席の背後にある横長の窓は映画のスクリーンのようで、走り去る街の映像を次々に映し出している。国会議事堂の外観の如く長方形を重ね合わせてできたコロニアル様式の建物、似通った住宅の単調な色調、どことなく控えめに並ぶ地味な広告看板、公衆時計、横断歩道を無視し車の隙間をぬって強引に道を横切る人々。憲兵達はこれらのものが一つ一つ、遠ざかり小さくなっていくのを眺めている。1923年、東京市。運転手はカーブの手前だというのにいっこうにスピードを落とそうとしない。ぎしぎしと音を立てて車中が傾く度に、ばたばたと暴れ回る昆虫の背中から振り落とされるような居心地悪さである。と、突然、轟音がとどろく。激しい地震のため、急停車。
関東一円を激震が襲い、東京市の至るところから火災が発生したという無線の連絡。第一震の直後に、電信、電話が破壊され、通信システムも大きな混乱に見舞われ、汽車、電車も不通となった東京市は、荒れ狂う猛火を抱いたまま外部との連絡を断たれて孤立してしまう。
再び、軍用トラックが発進する。今度は、車窓から眺める往来には位置や方角を示す標識が殆どない。たまにみかける矢印は天空のようなあらぬ方向を向いていたりする。壊れたままで時を刻むことを止めてしまった公衆時計。憲兵達の表情は皆暗く、こわばっている。
無線機から聞こえてくる様々な声。憲兵達は皆押し黙ったまま、一語一語に注意を払う。
「朝鮮人討伐をするから協力してくれ。」「暴動の事実などはない、デマだ。」「戒厳令下だ。斬捨御免、司法当局は手を引け。」「余りに多数の朝鮮人が集まり、収容する場所も食料も無い。」「周囲住民が激昂しているので、いつ騒動が起きるかもしれない。」「朝鮮人が保護を求めてきた。」「暴動の事実などはない、デマだ。」「主義者は。」「暴動を企てた主義者多数が警察によって殺された。」「まだ残党がいるそうだ。」「暴動の事実は確認できない。」「彼らはきっと暴動を起こす。」「一同を扇動して暴動を起こすかもしれない。ここでやってしまおう。」「主義者は国家の害毒だ。」

憲兵Aは驚いて言った;おい、皆、外を見てみろよ。往来には位置や方角を示す標識が殆ど無い。公衆時計も壊れたままだ。時を刻むことをやめてしまったみたいじゃないか。

憲兵Bは隊長にたずねる;目的地に本当に到達できるのですか。仮に到達できたとしてもですよ、大杉を捕まえられないんじゃないですか。

憲兵Cは隊長に向かって言った; 街には暴動が起きています。もはや警察だけに任せられません。軍と憲兵が協力して主義者どもの陰謀を徹底的に根絶するべきです。隊長、いま手をうたないと、手遅れになりますよ。命令を下さい。お願いします。甘粕大尉は現在、どこにいらっしゃるのだろうか。

「皆、落ち着け。我々は自分達の任務を粛々と遂行するだけだ。いまは他の事を一切考えるな。」、と隊長は皆に言った

憲兵達は皆、顔を見合わせるが、不安な様子を隠せない。

「甘粕大尉とご連絡をお取りになるべきと思いますが。」、と憲兵Bは言った

「その必要はないだろう。軍の無線機は正常に働かないようだしな。変更が生じれば本部から連絡が来るはずだ。」と隊長は言い聞かせた。





No1軍用トラック後部席の背後にある横長の窓は映画のスクリーンのようで、走り去る街の映像を次々に映し出している。国会議事堂の外観の如く長方形を重ね合わせてできたコロニアル様式の建物、似通った住宅の単調な色調、どことなく控えめに並ぶ地味な広告看板、公衆時計・・・

No2・・横断歩道を無視し車の隙間をぬって強引に道を横切る人々。憲兵達はこれらのものが一つ一つ、遠ざかり小さくなっていくのを眺めている。1923年、東京市。運転手はカーブの手前だというのにいっこうにスピードを落とそうとしない。・・・

No3ぎしぎしと音を立てて車中が傾く度に、ばたばたと暴れ回る昆虫の背中から振り落とされるような居心地悪さである。と、突然、轟音がとどろく。激しい地震のため、急停車。関東一円を激震が襲い、東京市の至るところから火災が発生したという無線の連絡。・・・


No4第一震の直後に、電信、電話が破壊され、通信システムも大きな混乱に見舞われ、汽車、電車も不通となった東京市は、荒れ狂う猛火を抱いたまま外部との連絡を断たれて孤立してしまう。再び、軍用トラックが発進する。今度は、車窓から眺める往来には位置や方角を示す標識が殆どない。

No5たまにみかける矢印は天空のようなあらぬ方向を向いていたりする。壊れたままで時を刻むことを止めてしまった公衆時計。憲兵達の表情は皆暗く、こわばっている。無線機から聞こえてくる様々な声。憲兵達は皆押し黙ったまま、一語一語に注意を払う。


No6「朝鮮人討伐をするから協力してくれ。」「暴動の事実などはない、デマだ。」「戒厳令下だ。斬捨御免、司法当局は手を引け。」「余りに多数の朝鮮人が集まり、収容する場所も食料も無い」「周囲住民が激昂しているので、いつ騒動が起きるかもしれない」「朝鮮人が保護を求めてきた」

No7「暴動の事実などはない、デマだ」「主義者は?」「暴動を企てた主義者多数が警察によって殺された」「まだ残党がいるそうだ。」「暴動の事実は確認できない」「きっと暴動を起こす」「一同を扇動して暴動を起こすかもしれない。ここでやってしまおう」。「主義者は国家の害毒だ!」

No8憲兵Aは驚いて言った;おい、外を見てみろよ。往来には位置や方角を示す標識が殆ど無い。公衆時計も壊れたままだ。時を刻むことをやめてしまったみたいだ。憲兵Bは隊長に言った;目的地に本当に到達できますか。到達できたとしてもですよ、大杉を捕まえられないんじゃないですか

No9憲兵Cは隊長に向かって言った;街には暴動が起きています。もはや警察だけに任せられません。軍と憲兵が協力して主義者達の陰謀を徹底的に根絶するべきです。隊長、今手をうたないと、手遅れになりますよ。命令を下さい。お願いします、甘粕大尉は現在どこにいらっしゃるのだろうか


No10「皆、落ち着け。我々は自分達の任務を粛々と遂行するだけだ。いまは他の事を一切考えるな。」、と隊長は皆に言った。憲兵達は皆、顔を見合わせるが、不安な様子を隠せない。「甘粕大尉とご連絡をお取りになるべきと思いますが。」、と憲兵Bは言った。

No11「その必要はないだろう。軍の無線機は正常に働かないようだしな。変更が生じれば本部から連絡が来るはずだ。」と隊長は言い聞かせた。


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