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zoom RSS 文学・大杉栄 3  本多敬

<<   作成日時 : 2011/01/26 06:14   >>

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隊長は皆に呼びかけた。センチコガネの話を聞かせようとした。

「もしこの世にふん虫がいなかったら地上はふんの山だらけになってしまいます。神さまはセンチコガネに、地上のふんを片付けるようにいいました。それなのに人間たちはくそ虫といってばかにしたり、きたない虫といって毛嫌いしています。センチコガネは自分達の幸せのために生きています。センチコガネはゆたかな心をもった虫です。夕日が西に沈んで風もなく、黄昏がせまる頃、薄暗くなってから巣穴からさっと飛び出します。ブンブンと音をたてて飛び回るのです。新しくおいしそうなラバのふんの山をみつけると、さあっと、とびおりて夕食にありつきます。そしてこの山の下に巣穴をつくります。工事にとりかかるというわけです。巣穴はいつもふんの下を掘ってつくります。土だけならまっすぐ掘れるのに、とちゅうで石や木の根っこがあると、曲がったりして、だから、きまった形はありません。」

「面白いな。一体誰がこしらえた話ですか。」と、憲兵Aはきいた。

「大杉栄だ。いや、正確には、フランス語で書かれたファーブルの「昆虫記」の話なのだが、大杉がこれを翻訳して出版した。」と,隊長は言った。

憲兵Bは隊長にきいた。

「大杉とは、我々が連行しようとしている人物のことですか。」

「そうだ。」

憲兵Cは隊長にきいた。

「一体何者なんですか、大杉ってやつは。」

「大杉はプロの監獄人だ。三年前に上海へ脱出し国際無政府主義運動の晴れ舞台にデビューした。去年は女装して憲兵隊の監視の目から逃れてパリのメーデー集会で演説し投獄され、結局フランスから追放されて日本に帰国してきた。大杉は「一犯一語」というスローガンを掲げて、捕まる度に獄中で新しい外国語を習得する語学の達人で、エスペラント語にも通じている。エスペラント語の創始者は、どの民族のものでもない、全く新しい言語をつくり出すことによって、民族や国家に属さない一個人になろうとしたのだ。この考え方が、大杉のような主義者達の心をとらえるのだろうな。」

「エスペラント語は「アカ」の言葉でしょう。」と、憲兵Dは言った。

「そうとは限らん。北一輝もエスペラント語の擁護者だ。」

「そうすると、北一輝も主義者ですか。」と、憲兵Dが言う。

「それは分らんな。」と、隊長は答えた。

憲兵Bは隊長に向かって言った。

「面倒臭い話です。エスペラント語も結局、世界中の言葉に、ただ新しい言葉を一つ、つけ加えただけじゃないですか。世の中は日本語一つで十分です。どんな国の人間も、皆が日本語を喋りさえすれば、ばらばらな心が一つになり、争い事もなくなる。そして、国体を侮辱する主義者も現れないはずです。」

「そうはいかんさ。現実に、現在世界に普及している英語とフランス語のことを考えてみろ。果たして、日本語には、この二つの巨大軍艦に取って代われるだけの十分な能力があるかどうか、大いに疑問だよ。」と、隊長は言った。





文学・大杉栄

24隊長は皆に呼びかけた。センチコガネの話を聞かせようとした。「もしこの世にふん虫がいなかったら地上は糞の山だらけになってしまいます。神様はセンチコガネに、地上の糞を片付けるようにいいました。それなのに人間たちはくそ虫といって馬鹿にし、汚い虫といって毛嫌いしています

25・・センチコガネは自分達の幸せのために生きています。センチコガネはゆたかな心をもった虫です。夕日が西に沈んで風もなく、黄昏がせまる頃、薄暗くなってから巣穴からさっと飛び出します。ブンブンと音をたてて飛び回るのです。・・・

26新しくおいしそうなラバのふんの山をみつけると、さあっと、とびおりて夕食にありつきます。そしてこの山の下に巣穴をつくります。工事にとりかかるというわけです。巣穴はいつもふんの下を掘ってつくります。土だけならまっすぐ掘れるのに、とちゅうで石や木の根っこがあると・・・


27・・曲がったりして、だから、きまった形はありません。」。「面白いな。一体誰がこしらえた話ですか。」と、憲兵Aはきいた。「大杉栄だ。いや、正確には、フランス語で書かれたファーブルの「昆虫記」の話なのだが、大杉がこれを翻訳して出版した。」と,隊長は言った。


28憲兵Bは隊長にきいた。「大杉とは、我々が連行しようとしている人物のことですか。」。「そうだ。」。皆顔を見合わせた。と、憲兵Cは隊長にきいた。「一体何者なんですか、大杉ってやつは?」。隊長はしばらく黙っていたが、皆に説明し始めた。


29「大杉はプロの監獄人だ。三年前に上海へ脱出し国際無政府主義運動の晴れ舞台にデビューした。去年は女装して憲兵隊の監視の目から逃れてパリのメーデー集会で演説し投獄され、結局フランスから追放されて日本に帰国してきた。大杉は「一犯一語」というスローガンを掲げて、・・・

30・捕まる度に獄中で新しい外国語を習得する語学の達人で、エスペラント語にも通じている。エスペラント語の創始者はどの民族のものでもない、新しい言語を創り出す事によって、民族や国家に属さない一個人になろうとした。この考え方が大杉の様な主義者達の心をとらえるのだろうな」


31「エスペラント語は「アカ」の言葉でしょう。」と、憲兵Dはきいた。「そうとは限らん。北一輝もエスペラント語の擁護者だ。」。「そうすると、北一輝も主義者ですか?」と、憲兵Dが当惑して言う。「それは分らんな。」と、隊長は答えた。

32憲兵Bは隊長に向かって言った。「面倒臭い話です。エスペラント語も結局、世界中の言葉に、ただ新しい言葉を一つ、つけ加えただけじゃないですか。世の中は日本語一つで十分です。どんな国の人間も、皆が日本語を喋りさえすれば、ばらばらな心が一つになり、争い事もなくなる。・・


33・・そして国体を侮辱する主義者も現れないはずです」。「そうはいかんさ。現実に、現在世界に普及している英語とフランス語の事を考えてみろ。果たして、日本語には、この二つの巨大軍艦に取って代われるだけの十分な能力があるかどうか、大いに疑問だよ。」と、隊長は言った。

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